2017東アジア国際シンポジウム
―急変する北東アジア情勢と朝鮮半島の平和体制、統一の展望―
(2017年8月24日 ソウル・韓国国会図書館大講堂)
横断幕タイトル冒頭に「光復節72周年および韓中国交樹立25周年記念」
東アジア総合研究所は2017年8月24日、ソウルの汝矣島にある韓国国会図書館の大講堂で、「急変する北東アジア情勢と朝鮮半島の平和体制、統一の展望」をテーマに、「2017東アジア国際シンポジウム」を開催した。韓国漢白統一財団、韓国世宗研究所との共同主催で、日本側から公益財団・日韓文化交流基金、伝統ある社交団体の社団法人・東京俱楽部、韓国側からアジア研究基金、薛勲(ソル・フン)国会議員室の後援をいただいた。
平日の午後で、あいにくの雨とあって参加者数が心配されたが、学者、言論機関関係者をはじめ、統一支援など71社会団体の会員を含む一般市民など約300人が集まった。
横断幕冒頭には「光復節72周年、韓中国交樹立25周年記念」の文字。日本植民地からの解放(朝鮮半島では「光復」)が即民族分断につながり、それからもう72年。冷戦時代は西側陣営の韓国には縁遠かった中国と国交を結んで25年目、発展してきた韓中関係は、北朝鮮の相次ぐミサイル試射に対応して韓国が米軍の戦域高高度防衛ミサイル(THAAD)を配備したことに中国が反発して報復的措置をとり、冷え込んだ状態になってしまった。
状況緊迫化の中でのタイムリーな開催に期待感
総合司会は漢白統一財団の龍華叔(ヨン・ファスク)全羅北道本部女性代表が務めた。
あいさつ冒頭は東アジア総合研究所の姜英之理事長。現在、政府レベルで冷え込んでいる日韓関の改善に資する、官と民、民と民などさまざまなレベルで交流が必要だとして日韓共同開催になった、と述べた。モンゴル、台湾、中国など関係各国で国際シンポジウムを積み重ね、朝鮮半島の平和と安全だけでなく、北東アジア共同体をつくろうとの目標を掲げやってきた、と研究所の26年の歴史を振り返った。北東アジアで、韓中、日中、日韓などの葛藤が深まっているだけに、いまこそ交流の必要性が高まっていると指摘。李明博、朴槿恵両政権の北朝鮮に対する強硬路線から、文在寅政権になり対話と交流への道が開かれているとして、文大統領の「ベルリン構想」を支持すると述べた。北朝鮮の核とミサイル開発を中断する必要を指摘した後、被爆体験がある日本の誰もが原水爆に持つ拒否感が、韓国では弱いように感じるとして、「北朝鮮に対抗して韓国も核武装すべきだという声も出ているが、朝鮮半島で戦争が起きないようにするのが優先課題だ。戦争になれば核戦争になり、朝鮮半島だけでなく、日本、中国、北東アジア全体が巻き込まれ、第3次世界大戦にもつながりかねない」と安易な核軍拡を戒めた。
次に韓国大統領直属組織である民主平和統一諮問会議の金德龍(キム・ドンリョン)首席副議長が、トランプ米政権の発足後に米中間の覇権争いが明らかになり、北朝鮮は核実験とミサイル試射の挑発を続け、朝鮮半島は一触即発の深刻な状況にあると位置付けた。文在寅大統領は統一に向けての努力はまず簡単なことから手掛けるべきだとして「ベルリン構想」を発表し、軍事会談や赤十字会談の提案をしたが、北朝鮮は反応を示していない。トランプ大統領がアジアの状況をあまり正確に知らないだけに、韓国の役割は重要だ。日本の現政権も誤った軍事拡張的な方向に進んでいる印象が強いだけに、東アジア総合研究所の役割も大切だと思う。全市民団体と共に、官民が努力するべき時期だと思うと述べた。
続いて共同主催者、漢白統一財団の李字炯(イ・ジャヒョン)理事長が、雨にもかかわらず多数の参加に感謝した後、統一が近づくよう努力したいと述べた。関係各国の葛藤が深まっているだけに、協力を深め、南北関係正常化の礎石としたいとの期待を述べた。
韓国側共同主催の世宗研究所からは、出席できなかった李相賢(イ・サンジン)研究企画本部長の代理で鄭成長(チョン・ソンジャン)統一戦略研究室長があいさつ。韓国の代表的な民間シンクタンクとして、統一政策や外交問題で政府系とは異なる姿勢から、政府に批判的な意見を含め中立的な研究活動を続けていると説明した。いま朝鮮半島をめぐる状況は非常に緊迫しているが、さらに厳しくなる場合もあろう、金正恩氏が水爆の開発推進や大陸間弾道ミサイル(ICMB)の実戦配備に言及しており、これに対し米国はさらに強硬に臨もうとしている、韓国が直面しているこのような難局を克服するためには、専門家が智恵を集め、多くの人々の関心を呼び起こす必要があり、重要な時期の開催だと述べた。
韓国法学教授会会長の鄭容相(チョン・ヨンサン)氏も祝辞で、情勢悪化の中で韓国、日本、中国の専門家が集まり議論する意義を強調。最悪の状況でも相互理解を通じて恒久的な平和を築く上で対話が必要で、周辺大国に北朝鮮の核放棄を実現できるような交渉テーブルをつくっていくよう求めた。また米国と中国がこれ以上、朝鮮半島の運命を担保にして対立することを回避、分断に責任を共有する周辺諸国が責任を果たすよう訴えた。
あいさつの最後は、文在寅政権の与党「共に民主党」の薛勲(ソル・フン)国会議員。韓国政府は、 THAADを追加配備し、国連安全保障理事会の対北朝鮮制裁に積極的に参加する一方、米国には「朝鮮半島内で戦争をしてはいけない」という立場も明確も伝えている。北朝鮮との「制裁と対話」という“ツートラック”政策も不変だが、引き続く北朝鮮と米国の対立で、南北間の対話の幅が狭くなっているのが現状だと述べた。従って国際社会との協力はもちろん、米国、日本、中国、ロシアとの緊密な協力体系の強化がさらに重要な時期で、今回シンポジウム開催の意義は大きいと評価し、活発な議論を期待した。
シンポジウムの討論開始を前に、女性合唱団による「われらの願いは統一」(歌詞は「われらの願いは統一、夢でも願うのは統一…」)など3曲が披露された。
第1セッション:北朝鮮核問題と北東アジア情勢
本格的な討論は午後2時すぎ始まった。司会は東アジア総合研究所の小野田明広副理事長(元共同通信ソウル支局長)。写真の着座者左端、左手前は総合司会の龍華叔氏。
北朝鮮核問題をめぐる中米間の競合と北東アジア国際政治の現況―朴東勲氏
最初の発表者は、中国の延辺大学の朴東勲(ピヤォ・ドンシュイン、ハングル資料ではパク・トンフン)教授で、韓国の全南(チョンナム)大学で国際政治学の博士号を取得されている。中国と米国の間の角逐と北東アジア全体の国際政治の変化をまとめて語った。
朝鮮半島は単なる周期的変化でなく危機的状況が深刻化している。関連諸国が互いに不信感を深め、北朝鮮核問題への国際協調がならず、新冷戦体制が形成されようとしている。
金正恩体制は、間もなく崩壊するとの西欧の見方とは異なり、権力体系の改編を通じ徐々に安定性を築いた。イラク、リビア、ウクライナなどの崩壊を目にした北朝鮮は、核と経済の「並進戦略」を国家路線とし、公然と核開発を国政運営の中心に置いた。経済分野でも一定の改革をした。核保有戦略を軸にして、「発展戦略」というよりむしろ「生存戦略」に懸命だ。
対外政策では、周辺諸国間の葛藤を高める「隙間戦略」を駆使。北朝鮮の労働新聞を調べると、2014年7月を基点に中国関連報道が急減し、中韓関係の接近への不満と憂慮が伺える。第4回目の核実験の後、韓国が戦域高高度防衛ミサイル(THAAD)の配備を決定すると、北朝鮮は2016年前半にかけミサイルを24回も発射し、第5回核実験も行った。結果的に韓国にTHAAD配備を選択させることで、韓中関係の離間に成功したと言える。
2017年発足のトランプ政府は、もともと米大統領の持っていた不確実性を、不「予測可能性」へ転換させた。「最大の圧迫と関与」を掲げて北朝鮮に圧力を加え、「4月危機」を抜け出すとすぐ「状況が適切ならば金正恩を相手にいつでも話す用意がある」という表現で対話に前向きとのジェスチャーを示すなど、「冷たい水と熱い湯の間を行ったり来たり」している。自分の任期中に完成されかねないという圧迫感が存在するので、トランプ米大統領はより真剣に、北朝鮮の核問題に対応している。
中国は中米間の頻繁な首脳外交を通じて危機的状況を管理し、同時に北朝鮮に対しても2017年度の石炭輸出の中断に加え、官制言論を通じて追加核実験が行われる場合には石油輸出の中断もあり得るとほのめかした。ロシアは、北朝鮮の貨客船「万景峰号」のウラジオストク・羅津間の定期航路就航を契機に北朝鮮との関係を改善する兆しを示しており、日本もまた、朝鮮半島の危機を利用して、日本国内の政治目的を追求しようとしている。
トランプ式交渉戦略は、執権初期から、為替や台湾問題などで中国の弱点を握りつつ、朝鮮半島での中国の重要性を強調して、中国との交渉に先立ちまずオプションの最大化を図った。北朝鮮問題と関連し「すべての選択肢がテーブルの上にある」とし、「もし中国が北朝鮮問題を解決しなければ、私たちがする」と中国を圧迫した。
中米間の協調は北朝鮮の不満も招いた。北朝鮮は、中米首脳会談や北朝鮮と米国との「1.5トラック会談」の直後、および中国の「一帯一路」首脳会談などの重要な節目に、ミサイルを発射し、中国に対し「もし万一、北朝鮮の意志を誤ってとらえ、誰かの曲に合わせてダンスを続けるなら…朝中関係への破局的な悪影響も覚悟しなければならない」(4月21日)などと、極めて異例の警告を発している。
ロシアは貨客船の入港許可のほか石油輸出などで北朝鮮との経済発展を管理して、朝鮮半島での影響力の強化を図る。 日本もまた、危機状況を利用して国内政治目的を果たそうとしている。北朝鮮の核問題解決のための主要国間の協調は揺らいだ。核問題解決の過程で、中国が支払っている戦略的コストが急増しているにもかかわらず留意する国は見られず、むしろ領域内諸国家の駆け引きが複雑になり政策協調の基本的枠組みが揺らいだ。
文在寅政権は、朴槿恵前政権時代の「国際協力」と一線を画し南北協力の重要性を相対的に強調する新アプローチで臨んでいるが、今に至るまで、北朝鮮の核問題と北朝鮮政策の展開において、周辺国との協力関係をどのように構築していくのかについて曖昧である。金大中、盧武鉉の時期に比べると、北朝鮮の核・ミサイル技術が質的に変化している中で、北朝鮮に対する韓国の民心も、以前と同じではない。かといって、北朝鮮も素直に韓国の提案に順応しないのではないかと思える。たとえ南北協力の局面を開いたとしても、核交渉の道筋を探せない場合、内外で共感を得るのは困難だ。南北協力で朝鮮半島問題を解決するという自負に比べ、状況はあまりにも大きく変った。戦略的思考の柔軟性を発揮して進歩陣営内部の変化を勝ち取ってこそ、状況を変え得る真の進歩政権として評価されよう。
北朝鮮核問題解決のための韓国の戦略―鄭京泳氏
次に韓国の漢陽(ハニャン)大学国際大学院の鄭京泳(チョン・ギョンヨン)教授が、軍事に詳しい専門家として韓国の対応可能と思える方策について発表した。
金正恩政権は核実験と弾道ミサイル技術の高度化を進め、核弾頭搭載ICBMで米本土を攻撃できる能力を保有したと判断される。北朝鮮の核・ミサイルによる威嚇を直視し対応しなければならない差し迫った状況だ。北朝鮮が、核先制攻撃を通じて赤化武力統一戦争を起こすおそれも排除できない。
北朝鮮が現在保有していると思える核兵器は20個(核プルトニウムは50余Kg、核爆弾8個相当。濃縮ウラニウムは2016年時点で300~400 kg、12個相当)。執権10年になる2021年までには30個余りを生産、合わせて50個余りの核兵器を保有、戦術核兵器として戦力化・実戦配置する方向にある。
既に前の金正日政権18年間の3倍以上に当たる52回ミサイルを試射した。米軍増援を遮断するための接近阻止(A2)戦略と、領域拒否(AD)戦略を推進している。今後1~2年内に米本土を攻撃できる大気圏再突入技術等を獲得し、ICBM運用能力を完成させよう。数年以内に潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)発射型3,000トン級潜水艦の進水もあり得る。
北朝鮮の核戦略は、短期的にインド、パキスタンのような核保有国としての地位の確保、中期的に核保有国として6者会談に参加し対北制裁を解除させるとともに平和協定締結の実現を図る、長期的に在韓米軍の撤退および国連軍司令部の解体、これら条件が整うのを待って、核による先制攻撃を行い、自ら標榜していた「強盛大国」を完成させることだ。
現在は南北間のあらゆる対話チャネルが途絶え、危機管理メカニズムも存在しないため、非常に不安定な情勢にある。朴槿恵前政権が北朝鮮の核問題解決に執着し、朝鮮半島の平和体制および南北軍縮に向けての努力を軽視した結果だ.韓国としては、国際社会と共に、対北朝鮮制裁へ積極的に参加、平和的、外交的な交渉を通じて非核化を追究するその一方で、韓米日の安保協力を強化しなければいけない。
凍結から廃棄へという段階的アプローチで南北対話を主導し、米国を引き込み、平和を構築する、つまり核凍結を入口とし、核廃棄および平和協定締結を出口とする戦略だ。
南北関係で政経分離の原則を貫き、人道支援および社会・文化交流を進展させると共に、経済協力事業での安定性の確立を図る。中長期的には、統合産業経済圏の構築を目指す。
北朝鮮の核を無力化する韓国の戦略として、(1)北朝鮮のミサイル・核攻撃の兆候を探知した際に先制攻撃する「キルチェーン」(Kill Chain)、(2)韓国の地形に適合した北朝鮮のミサイルを迎撃する独自防御体系「韓国型ミサイル防衛」(KAMD)、(3)北朝鮮が核攻撃をした場合に北朝鮮指導部などに直接報復する「大量応懲報復システム」(KMPR)という「3軸システム」を早急に戦力化し、このためにも独自の監視偵察および打撃兵器の増強が求められる。また現在は米軍が握っている戦時の作戦権を早急に韓国側に移転すべきだと強調した。将来のある時点で米朝対話が行われれば、北朝鮮は米韓合同軍事演習の中止と在韓米軍の撤退を主張する可能性が強く、米側が前向きに考慮すれば米韓同盟は瓦解して韓国に軍事的空白が生じかねない懸念があるという。
また北朝鮮の核兵器保持と米国の信頼性の揺らぎが韓国社会に恐怖心理を広げる可能性もあると指摘、北朝鮮が核先制攻撃によって武力南侵に絶対に出ないとは言い切れないとして、大災害のような核戦争を防ぐためには、北朝鮮の兆候を捉えて先制的な打撃を加える能力を持てるようにすべきだと述べた。このためには、全国民が一致して立ち向かう覚悟が大切だとも訴えた。
結論として、国際社会と共に最大限の制裁と圧力を加え、並行して対話と交渉を通じ非核化を図る。同時に、大規模核戦争を予防するため、全面戦争を十分に想定して能力を整え軍事行動を行うことで、北核ミサイルの無力化戦略を追求していくとまとめた。
米中関係に生じている転換と不確実性―揚向鋒氏
討論者として、まず韓国延世(ヨンセ)大学の揚向鋒(ヤン・シャンフェン、ハングル資料ではヤン・ヒャンボン)助教授が、報告へのコメントを英語で加えた。米国のユタ大学、サンディエゴ州立大学で助教授、ハワイ大学の東西文化センターで客員研究員を務め、延世大原州(ウォンジュ)キャンパスに滞在。日本の早稲田大学にも留学した。
オバマ米政権の任期末には、中国の行動に対し米側が非難を加える動きが相次いだ。東シナ海や南シナ海での対立、米国へのサイバー攻撃とされる活動、米政府のあからさまな妨害にもかかわらず中国がアジア・インフラ投資銀行(AIIB)の設立に成功したことなどだ。
その結果、米国内では対中国強硬論が高まった。中国側も米国内の熱気を感じ取り、大統領選で台頭したトランプ氏がビジネスマン的取引マナーに立脚して、大統領就任後は柔軟で管理しやすい対応を示すだろうと期待した。しかし中華民国(台湾)の蔡英文総統からの電話を受け取ったことで中国は衝撃を受けた。米中関係の基盤そのものである「1つの中国政策」が取引材料とされたからだ。
北朝鮮問題では、平壌に至る道は北京を通ると理解していたトランプ氏は、習近平主席との電話会談で、「1つの中国」政策を気持ち良く認めることからゲームを始めた。最小限の対価を支払った後、トランプ氏は上機嫌で「中国が(北)朝鮮問題を、我々のために解決してくれる」と自慢した。
初のトランプ・習近平首脳会談が特別な出来事もなく済んだことで、世界中が安心した。習主席は今秋の第19回共産党大会を予定通りスムーズに開くことを優先しており、北朝鮮にさらに圧力をかけたり、米国産牛肉の輸入で態度を軟化させる姿勢を示したりして、米国のメンツを立てるような譲歩をした。この見返りにトランプ大統領は、南シナ海での「航行の自由作戦」を抑制することで軍部に歯止めをかけた。
中国政府は常に北朝鮮問題を、米国と北朝鮮の両政府間の関係行き詰まりととらえ、そう公言しているが、一方で北朝鮮体制を崩壊させるのではないかという恐れが、石油供給停止という最大武器に中国が手を触れることを阻止している。北朝鮮とトランプ米政権の間で軍事力の行使も辞さないという脅し合いが深刻化するにつれて、米国と中国との間での貿易戦争の見通しは強まることになる。
だが、中米間に葛藤があるのは事実だが、北朝鮮の核・ミサイル開発の進展とともに、朝鮮半島情勢が緊迫するに至ったという点に関して共感が形成されてきている。韓国には中米間の協力を鼓舞する智恵が必要であり、より積極的な外交努力が求められている。
まずは核・ミサイル開発の凍結を働き掛けるべきではないか―小牧輝夫氏
次に東アジア総合研究所の小牧輝夫所長(大阪経済法科大学客員教授)がコメントした。アジア経済研究所で北朝鮮の経済問題を専門に研究された著名な学者で、国士舘大学教授も務めたと司会者が紹介。
朝鮮半島をめぐる情勢悪化には4つの要因があると思う。1つはトランプ政権になる前、特にオバマ政権の時代の「戦略的忍耐」、つまり何もしないという政策の失敗がある。また、すぐ崩壊するだろうと北朝鮮に対する評価を誤った。3番目にはトランプ政権の不確実性がある。4番目は周辺5カ国の関係が微妙であり、時には対立をしていることがある。
最大の問題はこの危機を解決できるかだが、最も望ましいのは核とミサイルの放棄だが、数年前には可能だったかもしれないが、現在まで開発が進んだ状況では「言うは易く行うは難し」で実際に実現するのは難しいことを我々は覚悟しなければならない。もちろんそれは、北朝鮮が何をしようとそれを認める、というわけではない。
報告をされた朴東勲、鄭京泳両氏が示した対応の仕方には若干違いがあったようだ。朴氏が外交を主にし、鄭氏は全面戦争も辞さない覚悟、つまり私の誤解であれば指摘してほしいが、必要であれば現実に北朝鮮の核能力を破壊することを含めてという立場。北朝鮮は当然反撃にでるだろうが、1994年の第1次核危機の際に米国がなぜ攻撃しなかったかというと、金日成が譲歩を受け入れたこともあるが、予想される被害の大きさのためだった。当時北朝鮮はまだ核を持っていなかった。今は核もミサイルも持っているので、反撃の大きさが違っているはずだ。もちろん韓国には優れた軍がいるので、通常兵力でも対抗出来る能力があると思うが、対抗しても被害を受けるのは変わりがないと思う。北朝鮮が韓国などに核兵器を使うのは最後の最後、そこに至るまでに対応するものがあるし、とらなければいけない政策があるのではないか。具体的にどのように対応すれば良いのかは軍事の専門家でないので分からないが、核の凍結という段階も念頭に置けるのではないか。そのこと自体も非常にハードルが高いが、そこに行けるのであれば、次の廃棄への希望が出てくるので、まずは凍結へ、その間に北朝鮮は凍結の代償に何を要求してくるのか、韓国などが検討して提案していく必要があるのではないか。
第2セッション:北東アジア平和協力の方向と朝鮮半島の統一
第2セッション司会は韓国安保統一研究院の河正烈(ハ・ジョンヨル)院長が担当した。報告冒頭に掲げた写真が第2セッションの討論風景で、中央が司会者。2年前の「2015東アジア国際シンポジウム」で河院長は「統一費用と韓国・北朝鮮の交流協力」を報告した。
トランプ政権発足後の韓米間での争点と課題―ストラウブ氏
冒頭報告者はデービッド・ストラウブ世宗研究所LS研究委員。米国務省で韓 国大使館に勤務、第2次核危機の際に6カ国協議立ち上げに朝鮮部長として携わり、2004-2006年は国務省日本部長。よどみない韓国後で報告した。(LSは韓国で産業用電力機器を主体とする大手企業グループ)
北朝鮮がなぜこのような行動をとっているのか、確実なことは誰も分からず推測せざるを得ない。個人的には北朝鮮指導層がなぜ核武装に執着しているかは、韓国の現状を一般北朝鮮国民が知らない状況とも関係があると思う。核兵器によってのみ安全が確保さると信じており、韓国を支えている米国、日本との同盟的関係を弱めようと図り続けている。米国の朝鮮半島からの撤退が目標だ。
米国としては1945年の太平洋戦争終結時には朝鮮半島に関心を持っていなかった。アジア全体の戦略的な重要性が少なかったのだが、朝鮮戦争で多数の戦死者が出たこともあってやむなく韓国支援をせざるを得なかった。その後も北朝鮮は米国の船や航空機を攻撃し、韓国に武力攻撃を加えたことがあったが、韓国側からの軍事攻撃はない。なぜなら、特に米国は、攻撃を加えれば戦争になるのを嫌ったためで、李明博政権当時にも反撃を控えた。これは米国の一貫した姿勢で、第1次核危機の1994年には北朝鮮を攻撃するかに見えたが被災規模を想定して見送った。この経緯は文書の公開でも明らかになっている。
今の状況は異なっており、核兵器を使って北朝鮮が米国を攻撃できる事態への対応を求められている。歴代の米大統領になかった状況で、米国内で非常に深刻な懸念を呼んでいる。国民に説明を迫られている。またトランプ大統領の性格から、北朝鮮に対する攻撃発言が虚言か真剣かがはっきりしていない。
韓国では新たに文在寅大統領が就任し、対話重視の平和的取り組みで臨んでいる。しかし米国では民主党の人さえ北朝鮮は信じられないと過去のやり取りから思っている。
今のところ、文在寅大統領は同盟維持のため北朝鮮への対応でトランプ大統領との温度差をうまく管理できていると思う。「戦争は起きてはならない」と韓国の大統領としては当然の主張を公にしているが、トランプ大統領を名指しで非難しないのは賢い選択だと思う。
しかし北朝鮮と米国が武力行使の脅しを強め緊張が高まるにつれて難しい局面になっていくだろう。トランプ大統領が問われるのは、北朝鮮の核攻撃を抑止できるかどうかだ。米国は60年以上にわたりソ連の核攻撃を抑止してきた。中国は数百万人が核兵器で殺傷されても構わないと言ってきたが、それでも米国は核攻撃を抑止してきた。
では金正恩氏は理性的人物なのか、そうでないのか。われわれは北朝鮮の核も抑止できると思っている。そのためには情勢を冷静に見守り、韓米関係を強化していく必要がある。平和的に管理し、いつかは解決できると思う。
結論として、米韓が団結している限り、北朝鮮は実際に核兵器を使用できず、あるいは核兵器により利益を得ることができないはずだ。
日韓関係の争点と課題―平井久志氏
日本の共同通信でソウル特派員を務め、以後も南北朝鮮や中国取材を続ける朝鮮半島問題専門家、と司会者が紹介。
「ソウルに住んだことがある日本人が日韓関係を話すのは難しい立場だ」と韓国語であいさつした後、日本語に切り替えた。
いま朝鮮半島の周辺情勢は大きく変っているが、日韓関係はよくない。前回の日米韓3国首脳会談で協力をうたったが、文在寅政権は安倍政権を、安倍政権も文在寅政権を信じない。
日韓関係では慰安婦問題は避けて通れない。一昨年2015年12月の日韓政府合意は、韓国の多数国民が受け入れられないという現状を文在寅政権は日本政府に伝えた。日本国民の世論は、なぜ韓国の人はいったんした約束を守れないのか、理解できないという声が多数なのが現実だ。両国の一般世論は残念ながら一致できていないが、一方で現在、北朝鮮の核・ミサイル危機という同じ状況下で生きている。日韓関係では、歴史問題だけがすべてだという切り口は少し危ないのではないかと思う。第1セッションでも話が出たが、外交・安保問題で日韓、あるいは日米韓の連携が持つ意義は大きい。歴史問題をどのように管理して動いていくかだろう。問題解決にはお互いの譲歩しかない。韓国が原理的考え方を少し静め、日本側は誠意をもって追加的に、歴史の被害者に対して謝罪し補償するという方向性を追加的に示すことだと思うが、そのために少し時間がかかると思う。日本側に政治的変化が出ている。東京オリンピックが終わるまで続くと思われていた安倍政権は、朴槿恵政権とよく似た、首相周辺にいる人たちが土地の払い下げ特権だとか学校認可で特別な恩恵を受けていたのが発覚し、不支持が支持を上回る状況になり、来年9月の総裁選で自民党の指導者が代わる可能性がある。安倍首相は、北朝鮮による日本人の拉致問題だとか北朝鮮危機を最大限に活用して政権に就き、やってきた人物だ。この意味では北朝鮮と「敵対的共存関係」にあると言って良いと私は思う。日本の社会は大きく保守化している、その原因を作ったのは北朝鮮で、私は北朝鮮のこの間の、核・ミサイル開発に反発を感じる。日韓関係では、新政権の「主導的役割」に私は少し心配している。朝鮮半島の情勢が大きく変わるためには南北関係が大きく変わらなければならないと思う。南北関係がうまくいってこそ、日朝の国交正常化や米朝の対話が成り立つと思う。国際情勢を無視するようなやり方で韓国が主導的役割を強く主張する場合に、問題を複雑にしかねない。北朝鮮のある程度の姿勢変化、それと米国の理解、中国の協力などの国際的環境が必要だと思う。その環境整備の上で、韓国は主導的役割を果せる。自分たちを中心に世界は動くと考えず、周辺国との調和に少し目を配りながら努力する必要がある。
トランプ米大統領が共和党上院議員に対して「武力攻撃をやる。たくさんの人が死ぬだろうが、それはあちら側だ」と発言したと報道され危惧を抱いた。「あちら側」とは、南北朝鮮であり、日本のことだ。もし現段階で米国が武力行使した場合、米国は核ミサイルの攻撃を受けないだろう。しかし被害を受けるのは南北朝鮮であり、日本だ。この意味で、文在寅大統領の戦争を阻止するという一連の発言を私は強く支持したい。安倍政権はこの部分について全く発言していないのが問題だ。韓国では「コリア・パッシング」の懸念があるようだが、安倍首相はトランプ大統領と何回電話会談しても「戦争をするな」と一言も言っていないことに憂慮する。日韓関係では、歴史に対する考え方が完全に一致していない状況ではあるが、戦争に反対する、東アジアで戦火を再び起こさせないことで市民同士が協力できることは多いと思う。日本は出生率の低下、高齢化の進展、人口の減少へと動いており、間もなく韓国も同じ状況になる。我々は防衛的には米国に依拠しながら、経済的には中国をパートナーとして生きていかざるを得ないという地域環境の中で生きている。日本だけで、韓国だけで、生き残っていこうとすれば非常に弱い。互いが大国ではなく中堅国家として発言力を確保していこうとするなら、日韓間が非常に戦略的にこれら地域環境を重視していく方向性が、韓国にも日本にも良いと考えている。慰安婦問題を含め歴史問題での対立は残っているが、問題を横に置いておくのではなく、解決策を模索しながらも、大きな意味での日韓の協力関係を強化、発展させていかなければならないと考える。
文在寅政権発足以降の南北韓関係の争点と課題―鄭成長氏
発表者の最後は韓国世宗研究所の鄭成長統一戦略研究室長。すぐ報告に入った。
文在寅大統領は7月に、「ベルリン構想」、軍事当局者会談と赤十字会談の提案、平壌訪問の用意ありと発言した。しかし北朝鮮は対南非難を繰り返し、拒否の背景はよく分からないのが実情とはいえ、朝鮮半島の非核化と平和体制構築、統一と交流協力に対する南北双方の立場の違いは大きい。段階的かつ包括的に南北関係を解決するという文在寅政権の姿勢は、一方的に核放棄を求めた朴槿恵前政権、李明博元政権とは明確に異なる。
文大統領は6月に「核兵器開発の凍結は、対話の入り口であり、出口は完全な核廃棄と韓半島の平和体制の構築である」という、2段階の解決策を示していた。
しかし北朝鮮は、核廃棄と朝鮮半島の平和体制構築のための交渉には参加しないとする強硬姿勢だ。米国の北朝鮮に対する敵対政策が撤廃されるべきだと主張し、米韓合同軍事演習の中止(韓国には受け入れられない)、在韓米軍の撤退を求める。韓国にとり脅威となるICBM発射についても「民族の快挙なのに批判している」と韓国を非難し、韓国政府の掲げる「主導的役割」は米韓首脳会談でトランプ大統領の支持を受けたが、北朝鮮は「米国で主人から承認を受けた、と卑屈な姿を見せた」と非難した。
文在寅政権は北朝鮮との和解を追求しているので、北朝鮮内部で期待が高まる可能性もある。その期待感を無くそうと対南非難を浴びせている面もあるだろう。北朝鮮は大きな枠組みが変わらないのに南北交流を深めても意味がない、韓国が国際社会の北朝鮮制裁に同調しているのは敵対的だ、などと言っているが、我々には受け入れられない主張だ。ベルリン構想もなぜ欧州でしたのか、北朝鮮を(ドイツ式に)吸収統一しようと企てているのではないかと反発した。今よりはるかに深刻な外交的孤立と経済状況に直面するまで、南北首脳会談は実現可能性が非常に低く、仮に実現しても意味ある成果を生み出せまい。
文在寅政権の対北朝鮮アプローチは、かなり盧武鉉政権当時のやり方を踏襲している。だが、盧武鉉政権当時と今では状況が一変している。北朝鮮は水爆を開発し、ICBM実戦配備もできると考えられているが、これで米国が介入しないだろうと誤った判断をする恐れがある。北朝鮮は米国と対決するためでなく、戦争が起きた時に米国の介入を防ぐ目的で行動している。韓国はこれら事情を踏まえて現実的な政策をとる必要があり、まず北朝鮮の核実験、ICBM試射を阻止しなければならない。実験できなければ技術進展が進まず実戦配備が難しくなるので、実戦配備前に阻止しなければならない。そのため重要なのは中国との戦略的な意思疎通で、中国の対応を変える必要がある。中国は北朝鮮貿易にとって絶対的比重を占めていて、いくら他国が制裁を加えても限界がある。米国や日本が中国の立場に取って代わることはできない。中国は非核化などを掲げ北朝鮮が変わるのを待つという「選択的忍耐」政策をとってきた。だが何も変化はなく、中国は持っているすべての手段を動員して、金正恩政権の政策変化を引き出す必要がある。核実験やICBM試射を中断しなければ石油の供給を中断し、北朝鮮労働者を召還させる、などと迫ることなどだ。全部をやる必要はない。そうすれば北朝鮮も妥協に出る可能性がある。
もし中国が圧迫手段を総動員して、北朝鮮の核とミサイル能力の高度化中断に寄与するなら、韓米両国は中国の安保上の憂慮を考慮して米国のTHAADを韓国が購入して直接運用する方案を積極的に検討する必要がある。韓国運用となれば、中国はレーダー問題で懸念がなくなる。費用はかかるが、韓国企業が中国からTHAAD配備決定後に制裁的に受けている経済的損失の方がはるかに大きいはずだ。トランプもTHAADの米国負担を嫌がっている。
南北対話が成功しなかった場合はどうか。金正恩氏については、今はしっかりしているように見えるが健康状態もそれほど良くないようだし、制裁が効果を上げれば住民と労働党幹部の不満が高まる可能性もあるので、平和的な方式による「金正恩政権の交代」まで考慮する必要がある。技術開発を終えて北朝鮮が「これからは核・ミサイルの実験をしないから対話しよう」と言ってきたらどうするか。北朝鮮の非核化が実現不可能な目標であることが明確になれば、韓国の独自核武装も考慮する必要がある。
続いて3人の専門家が討論者としてコメントを加えた。
文在寅政権の苦悩 –理想主義と現実主義の狭間にてー徐正根氏
司会が在日同胞で朝鮮半島問題が専門の山梨県立大学教授と紹介。
韓国と米国には従来から意見差があり、北朝鮮と米国が武力行使の脅しを強め緊張が高まるにつれて韓米は難しい局面をむかえることになるだろう、とストラウブ世宗研究所LS研究委員は分析された。私も同感だ。そこで、まず、武力衝突が迫った場合に韓国側としてはどう対応すべきなのかをストラウブ氏に伺いたい。
米国が攻撃を断行する場合に、韓国はどういう方向に向かうのか考えておく必要がある。はたして真正面から戦争を止めさせるのか。
一方で、米国が北朝鮮を核保有国として認め何かを得るという解決法も考えておくべきだ。外交には必ず妥協が伴う。北朝鮮に対して何を、どのように与えていくのかを伺いたい。
文在寅大統領はリベラル系で、理想主義的と受け止められている。理想主義で外交問題を解決することはできず、妥協が必要だ。北朝鮮は何かを得ようとして挑発を続けているが、トランプ大統領は「ビジネスマン」として実質的な利益を得られれば北朝鮮と妥協する可能性があるだろう。核保有国として認める代わりに、北朝鮮の核ミサイルが米国へは飛んで来ないなどの取引だ。そうなった場合、韓国はどう対応すべきか。
北朝鮮のミサイルは中国にも向けることができる。一体「敵」はどこなのだろうか。韓国はこれまで北朝鮮を「主敵」と見做してきたが、韓国の外交戦略として、「韓米日同盟」を『南北韓米日同盟』に変えるべく、発想の転換とそのための行程を確信的に推し進めてはどうか。大国間のパワーゲームに巻き込まれても、南北が互いをテコにしながらしたたかに己の存在価値を高める方向を目指すべきだと考える。
そして、中長期の視点から統一へのビジョンと、統一後の国のあり方、スキームを韓国政府はきちんと示すべきだ。それにあわせて国際的な外交戦略もしっかり練る必要がある。
『過去』問題解決を前提に韓日安保協力を-金斗昇氏
金斗昇氏は政府系シンクタンク 韓国国防研究院の主任研究委員。
韓国は、韓米同盟の強化と韓日協力の必要性について共感しながら、これを韓日、韓米日安保軍事協力の形態まで拡大することは負担に感じている。日本に対する国民感情と、中国、ロシアなど周辺国に対する配慮が背景にある。国内では実利的側面から日本との安保軍事協力の推進論も出ているが、憂慮派の方が主流だ。
歴史問題に対する韓国の国民感情を考慮すると、日本との安保軍事協力に対する国内世論の支持を得るのは容易ではない。朝鮮半島問題に日本が介入する口実を与えかねないという憂慮だ。
韓日米の協力については、周辺諸国の反発を招きかねず、結果的に韓日米VS中ロという冷戦当時と似た体制につながりかねず、有事の際の「巻き込まれ」への懸念もある。個人的には韓日米の協力関係は必要だと思う。有事に韓国に莫大な被害が予想されるのはもちろんだが、日本も相当な被害を受けるのは明らかなためだ。だから、北朝鮮の核・ミサイルの脅威を抑制し、朝鮮半島の平和維持のためには、両国が緊密に協力する必要がある。
安保問題専門家の間でこのところ米国の「分離政策」が取り沙汰されている。北朝鮮がICBMを開発し米本土を攻撃する能力を持っていると評価されているだけに、ソウルや東京を守る価値があるのか、と問う動きだ。この米国の「デカップリング戦略」に対応するためにも、韓日が協力し米国の同盟国への安保公約を着実に履行させていく必要がある。
胸襟を開いて話し合うには信頼関係が必要だ。慰安婦問題など韓日両国が抱える歴史問題の解決策を模索する両国政府の共同努力が肝心で、相互間の信頼関係が担保されてこそ真の意味の安保協力が可能となる。
慰安婦問題では韓日政府合意を受け入れられないと言っていて、THAAD問題では前朴槿恵政権の約束を尊重するという韓国政府の態度はある意味では「ダブルスタンダード」ではないか、という問題提起が平井氏からされた。日本としてはその見方もあり得るだろうが、韓国としては韓日と韓米を同じ線上に置いて比べるのは無理があると思う。韓米は軍事同盟であり韓日関係と次元が違い、より重要だからだ。在韓国連軍司令部を横田基地から韓国に移す問題もある。日米同盟が日本にとり特別なのと同様だ。このような観点に立って、新たな文在寅政権の政策を理解してほしいと思う。
韓国主導による北朝鮮の非核化は、本当に実現可能なのか-五味洋治氏
東京新聞の編集委員として紹介された。時間がなく短く発言。
鄭成長・世宗研究所統一戦略研究室長の報告の中で、中国関係部分についてコメントしたい。最近の国連安全保障理事会での対応で中国は北朝鮮制裁に慎重な姿勢を示している。中国、特に中国の地方が国連制裁で最も大きな代償を払うだろうなどと論じている。中国がどこまで圧力を掛けてくれるのか、なかなか期待できないというのが本当のところだろう。
直前の金斗昇氏が指摘されたが、日本でも「デカップリング」についての報道が増えている。米国は今、日本や韓国と手を結んで北朝鮮に圧力を掛けているが、北朝鮮と突然手を結んで北朝鮮の核やミサイルを認定し、そのまま交渉に入るのではないかという疑念だ。日本の外務省や首相官邸の中でもその可能性は否定できないと見ているようだ。政府幹部の間からも、北朝鮮を非難するだけでなく柔軟性をもって対応しようという声が出ている。
米韓軍事演習が終わったら何か前向きの動きがあるのでは、という声が、期待もあって流れている。まだ仮定の段階だが、韓国や日本がどのように対応できるだろうか。
米国との外相および国防相による「2+2」会合でも、北朝鮮や中国を意識して、防衛力の増強がうたわれ、日本の防衛予算も最大の伸びになりそうだ。米国のデカップリングが実行されれば、従来とは違う軍事緊張が生まれるのではないか。韓国と米国の共同歩調がそろえばその懸念はないだろうが、この点も伺いたい。
司会が会場からの質問を求め、後でまとめて報告者に答えてもらうと説明した。
ストラウブ氏
北朝鮮の核凍結についての米韓間に差があるが、その差は大きくない。文在寅大統領は凍結の代価として何かを考えているようだが、米国はただで何かを与えないというのが過去の実績に基づく基本的立場だ。かつて北朝鮮とのさまざまな約束がまったく履行されなかったからだ。凍結に関する約束が守られなかった。北朝鮮の核凍結の見返りに何かを与えるつもりは米国にはなさそうだ。まずは核実験を中断して、その後で交渉できるという立場のようだ。米韓間の意見差はそれほど大きくなく、ある程度調整できると思う。トランプ大統領も交渉できると発言したこともある。
米国が北朝鮮を核保有国と認めるのは、ほとんど不可能だと思う。もし認めれば、韓国、日本、欧州、中東の各国から大きな反発を受けよう。国際的に誤った信号を出すことになる。米国は中国がこの地域で大きな役割を果たしてくれることを継続して期待している。また韓国もそうだが、日本で平和主義の柱を揺らがしかねないことを懸念している。
過去の歴史問題などで、日本と韓国が互いに協力しようとする動きは従来あまりなかった。安倍首相は憲法改正を試みようとしているが、そうはならないだろうという意見も多い。米国としては、韓日との協力強化を図り続けるだろう。
平井氏
(日本で23年間生活しているという韓国人女性が、若者を中心に最近の日本で嫌韓感が高まり、韓国人として生きづらくなっているが、どんな対応策があるのか、またメディアの偏向をどう考えるかとの質問に対して)
日本でヘイト的な流れが強くなっているのは現実だろう。ヘイト・デモが増えていて、在日の方々、韓国から日本に行かれたニューカマーの人々も眉をひそめていると思う。米国の白人至上主義に対抗した大勢のデモ隊を見て、トランプ氏を大統領に当選させたと同時に、米国の健全さを感じたりした。日本でも反ヘイトの動きは組織化しなければいけないと思うが、この趨勢はネット社会が生んだ現象だろう。一般社会で言ってはならない、やってはならないことの規範を個々人が持っていたのだが、いったんネット社会で何を言ってもいいという動きになり、自分の不満のはけ口を語り合うことでつながって勢力化が進んだと思う。また、経済成長が止まり、疎外された人々が、より疎外されている人々を巻き込み、在日韓国人は何も恩恵を受けていないにもかかわらず、特権的恩恵を受けているというデマを広めてしまった。韓国人の妻との間のわが子から就職の面接で、家族状況を書かないとウソを言うようだが良いのかと尋ねられ、「書くな、問われたら答えろ、日本の社会はまだ健全だと言っても十分に成熟していない」と答えた。時間がかかる問題だが、肥大化するヘイトの動きを明確に個々につぶしていく必要がある。
天皇訪韓の問題への良い質問に感謝したい。現在の天皇は日本人の中でも最も平和主義者と思う。サイパンを訪れた際、日本人慰霊碑の後、予定に全く入っていなかったのに韓国人犠牲者の碑の前に天皇自身の意思で行かれた。そのようなパーソナリティーを持っている。日本憲法は天皇の政治行為を禁じているので、天皇の意思で訪韓はできない。安倍政権が続いている間は韓国訪問をできないだろうし、安倍退陣があれば好機かもしれない。また天皇訪韓となれば、法の制約上で内閣がまとめる内容という制限的なものであっても間違いなくなんらかの形で過去の謝罪をなさる人格の方だと思う。訪韓できない最大の理由は行けば歓迎されないという一般論があるからだ。だから韓国の人がぜひ天皇に来てほしいという声を挙げてもらうことが、天皇訪韓を実現する最大の力ではないかと思うし、天皇訪韓は日韓の将来に非常に良い結果をもたらすだろうと私は考えている。
最後に主催者を代表して姜英之理事長が閉会辞を述べた。
姜英之氏が閉会辞
若者を含む大勢の参加者が難問題について熱心に拝聴してくれたことに感謝する。本日のシンポジウムで、朝鮮半島情勢が危機に陥っているとの共通認識を確認できたが、状況ははるかに深刻だ。1994年の核危機とは次元が異なる。北朝鮮は20個の核兵器を持ち2020年には50個になるという大変な事態で、世界超大国の米国ですら北朝鮮にてこずっている。北朝鮮が事実上の核保有国になっているという現実を否定できないということ。それが、朝鮮半島における新しい戦争の危機をもたらしていることでも、共通認識を持てたのではないかと思う。
解決方案だが、やはり外交的、平和的な道をとるべきだという点でも意見の一致をみたと思うが、鄭京泳氏が指摘したように代替「Bプラン」、北朝鮮の危険な軍事的兆候に対しては韓国も軍事的に対応する覚悟が必要だという意見もあった。これについては賛否両論が皆の中にあると思うので多くは触れないが、そのような意見が今後尊重されてもいいのではないか、という状況が生まれていると思う。北朝鮮との交渉では核凍結という手段が当面は現実的だという指摘もあった。文在寅政権のベルリン構想は戦争を回避し、平和体制を具体化していく上で、一気に解決するのではなく段階的に核凍結をもたらしていこうという話だった。しかし核凍結すらもなかなか難しい。
日韓米の軍事同盟強化が必要だという意見が一方にあり、それに対してTHAAD配備には中国が徹底的に反対し、韓国に対する政治・経済報復をするなど、利害関係が絡まっていて、朝鮮半島の南北関係の改善もそれだけに難しい。韓国が主導的役割を果たすのは、姿勢としては評価できるが、容易にそうできないのも現実であるため、外交の「芸術」が必要となる。韓国が自らの狭い民族主義を乗り越える必要がある。米国も日本も中国もロシアも、朝鮮半島の分断に直接的、間接的に係わっていると思う。韓国には、歴史を踏まえ主導的に朝鮮半島での戦争を止めさせて、平和を確立し、統一するために、周辺各国との「芸術」的な外交を構築していく責務がある。民族の力、智恵が必要なときだ思う。この意味で、本日のシンポジウムの報告者、討論者は、立場と見解の差は若干見られたものの、朝鮮半島情勢に現実的かつ冷静に接近をしていく意見が多く出され、、実りのある論議の場になったと思う。
参加者にあらためて謝意を表すとともに、来年以降も毎年このシンポジウムを続けていきたいと思っているので、成功裏に継続できるようさらなる協力をお願いしたい。
(了)