第2回コリアフォーカス




韓国、尹錫悦新政権の前途に待ち構えるもの

 
△検事出身の大統領に重い国民統合の課題
 
韓国では、5月10日に検事総長出身の尹錫悦大統領が就任した。5年前に朴槿恵前大統領が弾劾裁判で追われ、保守政権が大きく崩れた後、革新系の文在寅大統領が登場した。ロウソクデモの熱気が依然として社会全体に蔓延し、保守政党・保守勢力は委縮してしまい、政権与党になった「共に民主党」の指導者は、20年執権を豪語した。「驕れる平家久しからず」の言葉通り、「共に民主党」は5年1期で野党に転落した。
文在寅大統領は就任時、「国民統合」を国政重要課題に挙げた。「積弊清算」なる革命的スローガンを持ち出し、過去の独裁権と財閥大企業の癒着、不正腐敗構造にメスを入れることに熱中した。政権の中枢幹部は、文在寅大統領に近い側近たちで占められ、有力な保守勢力の政策通人士は、排除された。検察改革の名のもとに与党政権固めに執着し、保守野党政治家を追い詰めた。結果、国民統合はならず、保革の対立、国民分裂が進んだ。いわゆる「南南葛藤」と呼ばれる社会の宿痾は緩和されるどころか、慢性化し、結局、韓国政治発展は後退するほかなかった。 
内部分裂と混乱を繰り返す体たらくの保守野党に国民はそっぽを向き、革新政権への政策的期待をかけたが、結局は裏切られた。特に、文在寅政権下で不動産価格が暴騰し、住宅問題に苦痛を強いられる国民の目をよそに、よりによって多数の政権中枢の幹部、与党国会議員たちが、不正な方法で土地取得、投機に走り蓄財行為を重ねていた事件が国民をショックに陥れた。
次期大統領選挙の国民世論調査では、早い段階から最大保守野党「国民の力」は有力な候補がおらず、与党からは、非文在寅系の李在明元城南市長と、文在寅政権下で検事総長を務めた無所属の尹錫悦氏の二人が、高支持率の状態で拮抗していた。のちに「国民の力」に入党した尹氏が、大統領に当選するわけであるが、早くも政権を奪われた文在寅政権勢力は、尹氏が執権する前から、その行く手を阻んだ。大統領府の青瓦台の移転、補正予算問題、検察から捜査権のほとんどをはく奪する法律「検察捜査権はく奪法」の公布など、尹新政権への非協力的態度が露骨に表れた。
韓国では、政権が変わるたびに前大統領が裁かれ、監獄行きになる醜悪な政治現象が政治の後進性を示すものとの評価があるが、大統領でも法を犯せば、罰せられるという面からみれば、民主主義の前進とみなすべきだ。
尹新政権に対する国民の期待する第1の国政課題として「国民統合」が挙げられている。
世代間、男女間、地域間、保革の対立、所得・貧富格差など、社会・国民分裂状態をそのままにしては、これ以上経済、社会、文化の発展は望めないという認識は一致している。経済規模、国際舞台での地位などから、韓国が先進国と位置付けられるのは、まだ眉唾物と言わざるを得ない。
先進国の指標は、国民の道徳的レベル、民度の高さでなければならない。その点からいえば、韓国は先進国と評価されるためには、もう一段の社会的発展を遂げなければならない。そのためにはぜひ「国民統合」の課題をクリアしなければならない。だが、「公正と常識」を掲げる検事出身の尹大統領は、文政権下の高官の不正・不法行為を見逃すわけにはいかない。これには旧政権勢力の抵抗が必死であり、保革対決は避けられない状況だ。「与少・野大」という国会構成から、国政運営は極めて難しいだろう。尹新大統領には政治報復という観点からではなく、正義、公正社会への実現に向かって、自らの信念である『人ではなく、法に従う』という順法精神をしっかり発揮してもらいたいものだ。

 
△北朝鮮の核攻撃発言にどうこたえるか?
 
北朝鮮に対し、融和政策をとってきた文在寅政権に代わって、対北強硬姿勢を取る尹政権の登場によって南北関係は緊張状態が起きることが予想される。実際、韓米同盟の再建を掲げる尹大統領との首脳会談のため5月下旬に予定されるバイデン米大統領の訪韓とも相まって北朝鮮は、弾道ミサイルの「祝砲」を立て続けに放っている。
5月12日には、日本海に向けて弾道ミサイル3発を発射、日本の非田的経済水域(EEZ)害に落下した。北朝鮮によるミサイル発射は、巡航ミサイルも含め今年に入り15回目。5月中に第7回目の核実験の準備も完了するといわれている。
大統領選挙期間中は、与党共に民主党の対北融和政策に対し、韓米日連携の対北強硬発言が目立っていたが、大統領就任演説では、北朝鮮を刺激するのを避け、韓米安保協力には言及しなかった。北に対して核開発をやめ非核化に応じれば、北経済を画期的に改善するための大胆な計画を準備する、と誘い水を持ち掛けた。だが、北の答えは、ノーであった。演説直後に弾道ミサイルを発射した。
ウクライナ侵攻に突進するロシアのプーチン大統領の「核使用発言」に鼓舞されたかのように4月25日の朝鮮人民軍創建90周年での閲兵式の演説で、なんと「我々の核が戦争防止という一つの使命だけに束縛されることはない」と先制核攻撃を示唆したのである。
これは、単なる脅し用の修辞と飲み受け取るには、あまりにも重い言葉である。文在寅大統領は朝鮮半島の平和プロセス構築と称して、金正恩総書記との3度にわたる首脳会談を通じて、一応対話と交流で、「一時的に戦争を回避する脆弱な平和」を実現したともいえるが、北の核開発を止めるどころか、核開発拡大を促してしまった。
北の核には、南の核開発で対抗、抑止戦略をという議論が、韓国内で現れているが、韓米同盟の枠組み、国際社会の世論圧力をはねのけてまで、強行はできまい。朝鮮半島の核戦争は、南北の惨劇のみならず、人類の破滅につながる。だとすれば、やはり、外交と対話しかない。容易に対話の場に出てこない北朝鮮に対し、いかに衆知を集め知恵を絞って高等戦略戦術を編み出すか、尹大統領の手腕が問われる。
(5月12日記)

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