第1回コリアフォーカス




第20代韓国大統領選挙結果は「神の業(わざ)」

 
△なぜ好感度の低い尹錫悦氏が当選したのか?
 

3月9日、韓国大統領選挙の結果、保守系最大野党「国民の力」候補の尹錫悦前検事総長が、わずか0.73パーセントポイントの超僅差で革新系与党「共に民主党」候補、李在明前京畿道知事を押さえて勝利した。
5年1期の大統領選挙において、過去、10年2期ごと革新系、保守が交代してきたが、今度は、革新系の文在寅政権が5年1期で政権を野党に明け渡すことになった。
「史上愛悪の大統領選挙」と言われた。尹錫悦氏と李在明氏は、選挙期間中、政策論争はそっちのけで、相手候補及び家族の不正疑惑を追及するネガテイブキャンペーン「中傷合戦」に終始した。
世論調査(韓国ギャラップ2月7日)では、両者ともに「非好感度」が「好感度」を大きく上回っていた。当選者の尹氏の場合、「好感度」が25%に対し、「非好感度」が68%と、李在明氏の「好感度」は36%「非好感度」は58%と比較し、「非好感度」がはるかに高かった。国民からすれば、大統領にふさわしい、より良い人を選ぶのではなく、どっちもだめだけど、よりましな人を選ぶ選挙だから、やりきれない気持ちでいっぱいであったと思う。「非好感度」の基準からすれば、よりましな人を選ぶとすれば、李在明氏になるはずだが、当選可能性についての問いに尹氏48.4%、李氏42.4%と出ていた。このクロス現象の謎を解くことが今回の大統領選挙の意味を明かしてくれる。
なぜ好感度の低い尹氏が勝利したのか?文在寅政権への審判が下されたのだ。政権交代か、再執権かの戦いで、国民は政権交代に軍配を上げた。
5年前に登場した文在寅政権はスタート時、80%の高支持率を得た。「ローソクデモ」による朴槿恵大統領弾劾のあと、国民の絶対的支持を受けて「国民統合」を掲げ、「積弊清算」という革命的スローガンを打ち出した。だが、国民統合どころか、さらなる国民分裂をもたらした。過去の軍事独裁政権時の「権力型不正腐敗」を除去するとした。公正と正義の社会を作るとした。だが現実は、文在寅大統領の最側近の曹国法務部長官の子弟の不正入学事件、親戚の不正投機事件などで足元から、政権の非理、不正が露呈し、政権末期には、政府の土地開発公社による不動産不正疑惑に政府与党の国会議員ら数十人が関与していたという事件が明るみに出て、文在寅政権の国民的信用は地に落ちてしまった。保守政権ならいざ知らず、革新進歩政権の高官、国会議員たちが悪に手を染めていたことに支持者たちからは裏切られた。期待外れだ、の怨嗟がこぼれた。半面、数十回の不動産対策を打ち出すものの、その都度さらに不動産価格が上昇、完全に失敗。若者にはマンションは永遠の高値の花になってしまった。雇用政策は成果が出ず、青年の失業率は10%前後の高止まり。就職難の怨嗟が社会にあふれた。
 
△ローソクデモの逆流現象
 
かつて韓国の若者、青年層は圧倒的に革新系政党を支持していた。しかし、文在寅革新系与党に対しては、圧倒的な不支持という珍現象が生じた。もはや勝負はついたのだ。ローソクデモの大波によって保守政権が撃破された状況の反転が起きた。文政権への期待が失望に変わった。政府与党に逆流が押し寄せたのだ。文在寅革新系与党政権が誕生し、政権幹部の間では「20年執権説」が唱えられるほど傲慢がはびこり、党指導層のセクハラ事件、
従軍慰安婦関連の尹美香事件など、「共に民主党」はもはや改革的でも道徳でもない既得権益勢力だとの認識が広がった。一言で「ネロナンブル(他人がやれば、不倫、自分がやればロマンス)」つまり牽強付会で一貫した「共に民主党」から国民の支持が消え去るのは至極道理の話であった。
面白いのは勝敗の要因分析だ。中道系の安哲洙大統領候補との野党一本化の影響である。選挙日直前の一本化成立で、彼への支持票がどっちに流れたかだ。在外国民選挙では、李在明氏が、60%得票と圧倒的で、期日前投票でも李在明氏が優勢だったと見られる。9日の投開票当日、午後8時からの開票で12時までは、李氏が尹氏より10ポイントの差をつけてリードしており、民主党陣営では、開票当初「買った~」という歓声が上がった。野党候補一本化で危機感を募った進歩系陣営支持者たちが、それに反発し、こぞって李氏応援に回ったと推測される。開票は期日前の投票から始められるので李氏優勢と出たのだ。しかし12時過ぎから、尹氏の逆転が始まり、翌午前3時過ぎに尹氏当選確実となり、最終的に勝利した。実にドラマチックな展開であった。野党候補一本化で安氏の支持票がすべて尹氏に回ったとはいいがたいが、プラス効果は確かにあったであろう。超僅差であったことからも、安氏との一本化は、千金の重みがあった。いずれの結果にしても僅差が予想されたので、米国の大統領選挙でトランプが承服せず、ごたごた騒ぎが起きたような事態が韓国でも起きるのではないかと心底心配したが、杞憂であった。
李氏が早々と敗北宣言を出し、尹氏に祝福のエールを送り、「国民統合と和合で成果を出すように」とメッセージを送ったことに対し拍手喝采した。
また当確を決めた尹氏は、早速「私とわが党の勝利ではなく、偉大な国民の勝利である」と支持者たちに答えた。これにも拍手喝采した。
超僅差であっても、「政権交代」という歴史の流れがそのまま実現したこと、「終わり良ければ全て良し」のごとく選挙後の李氏と尹氏の国民を尊重する精神の発露に韓国政治の未来と発展に希望を見た。同時に、選挙結果は、「神の業(わざ)」と感じた。
(3月12日記)

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